豆腐クマの人の日記

豆腐クマスタンプの作者です。

「烏に単は似合わない」を読んで

過酷なゲームから一夜明けて、課題図書となっていた本を読み終えました。久しぶりの読書で読み切るのに時間がかかるだろうと思いましたが、思いの外夢中になりあっという間に読み終えました。早速その感想を書いていきたいと思いますが、なるべく早くネタバレのない範囲内で書いていきたいと思います。

あらすじ

舞台は八咫烏の一族が支配している山内と呼ばれる世界である。その一族の宗家と東家・西家・南家・北家の四大名家によって政治が行われており、その政治の場は朝廷と呼ばれている。登殿と言われる宗家の世継ぎである若宮の后を決めるために、四大名家から一人ずつ姫を集めて、その中から若宮が結婚相手を選ぶ儀式が始まるところから物語が始まる。その登殿の舞台となる桜花宮で各々が様々な思惑を胸に、姫たちによる宮廷バトルが繰り広げられていく。

感想

まず初めに驚いたのは、その世界観のスケールの大きさと細部に至るまでの舞台設定である。平安時代が元になっていると感じられたが、建物の構造や風景に始まり、姫たちの衣装や小物、お香に至るまで詳しく描かれており、特にお香や着物の色は日本の伝統的なものを引用しており、調べながら読み進めて今回初めて知ることも多かった。

もちろん世界観だけではなく、四大名家の姫たちもそれぞれ魅力的に描かれていた。おっとりとして世間知らずな東家の姫、優雅で気の強い西家の姫、豪快で男勝りな南家の姫、控えめで謎の多い北家の姫、それぞれの個性がはっきりとそして魅力的に描かれていた。

物語の序盤では、東家の姫が世間知らずが故に西家の姫からいじめられて、それをきっかけとして世間のことを知っていくのだが、無知な人をいじめるのは見ていてあまり気持ち良くないものであり、自分もそうならないように気をつけなければと感じた。職場で後輩指導をしたり、他のチームの人に情報共有する時に、相手が自分の想定している知識水準にないとついイライラしてしまうことがあるが、嫌味がましい言い方になったりしないように、優しく接することができるようにしたいものである。

読者は東家の姫の目線でこの世界のことや桜花宮のこと、そして過去のことを知っていくのだが、特に印象に残ったのが桜花宮の風景描写である。それぞれの姫が春夏秋冬の名を持った屋敷に住むのだが、それぞれの景色が見事に描かれており驚嘆した。東家の姫が住む「春殿」の風景を一部引用する。

朧に浮かぶ月の光に照らし出されたのは、白く輝く、満開の桜の波だったのだ。 目の届く限り、山の斜面を覆い尽くす桜の花。やわやわと吹き付ける風は、花の香りを濃厚に含んでいる。

もし、映像化されるならば、どんな景色になるのだろうと思い描きながら読み進めるのが楽しかった。桜花宮自体も山の斜面に建てられており、非常に複雑な地形にあるとされているので想像するのは簡単ではないのだが、それを想像しながら読み進めるのもこの小説の醍醐味だと感じる。

物語が進んでいくにつれて、様々な事件が起こっていき、登場人物の印象も最初とは大きく変わっていくのである。読み終わった時にこんなにも予想が裏切られた小説は久しぶりだった。 序盤から伏線が数多く張られており、一度読み終えたら必ずもう一度読みたくなる衝動に駆られると思われる。二度目は同じ文章なのに、全く違った解釈で読み進めることが出来る。

まとめ

今回読んだ本は自分で選ぶことはなかった本だったので、途中で飽きないか心配だったのですが、夜更かしして読むくらい続きが気になって夢中で読んでしまいました。この本を紹介してくれた先生に感謝して、続編も読んでみようと思います。